「大切な言葉との出会い」
すみれクリニックには、正面の壁に書が飾られています。
今回はその書の言葉が作られたエピソードをお伝えします
(このエピソードは僕が脳神経外科医として千葉県循環器病センターで
ガンマナイフ治療をしていた2011年ころの出来事です)。
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「先生、最近、笑えなくなってきちゃった。
今まで、この病気になっても何とか笑顔で過ごせるように心がけてきたのだけれども
ちょっと辛くなってきちゃった。
笑顔になれる言葉を探しているのですけど何かいい言葉ってありますか」
60代、肺癌、転移性脳腫瘍の男性の患者さんです。
その患者さんは私の病院で頭の病気の治療を行い、その後、3か月ごとに通院して頂いていました。
そしてこの会話は初めて診察してから2年目くらいのころでした。
それまでの外来診療ではいつも柔和な笑顔を浮かべていて、
ハキハキとお話をされる患者さんでした。
短髪でがっしりとした体形でいつも背筋がピシッと伸びた姿勢でいましたので
「○○さんはいつも姿勢がとても良いですね。何かされているのですか」
と聞いてみたところ、合気道を長く続けているとのことでした。
そして「正しい姿勢を保つ秘訣ってあるのですか」と聞いてみたところ
「先生、ちょっとあれですが、コツはお尻の穴を閉めることなのです。ここが緩んでいては
気が抜けてしまいますからね。最近はここが緩んでいる姿勢をしている若者が多いですね」
そう教えていただきました
(それからというもの、僕は事あるごとにこのコツを実践するようにしています)
そのような自己鍛錬を長くなさってきた患者さんが冒頭のような言葉を話されるのですね。
見た目ではわかりませんでしたが、きっと体の病気が進んで体調に変化があったのだと思います。
「先生、自分でね、言葉を探して見たのだけれども、どうにもいいのがなくて。
たとえば笑う門には福来るで「笑門来福」とか腹を抱えて大笑いする意味の「抱腹大笑」とか。」
その言葉が書かれた手帳を私に見せながら話してくれました。
「うーん、○○さん、 笑顔になれる言葉ってなんだろう。ちょっと直ぐには浮かばないですね。
ちなみに私の好きな言葉って一期一会なのですよ。名刺にもその言葉が書かれていますからね。
あっ、○○さん、一期一会の会を笑顔の笑にしてみるってどうですか。一期一笑ですね。」
「先生、それ、いいですね!」
と直ぐに「一期一笑」と手帳に書かれて
「これ、いただきです!」
とにっこりと笑顔で話してくれました。
そして
「これってひとつひとつの出会いを笑顔で迎えて、そしてその出会いが、笑顔で溢れるよう大切にする。
そんな意味合いをもつ言葉になりますね。
いやー、先生、よかったー。
今日は、こんな素晴らしい言葉に出会えて、本当、嬉しいです。
これで毎日、笑顔で暮らせます。ありがとうございます!」
人と人との会話ってこんなピッタリな言葉が偶然にも創り出されてくるのですから不思議なもので
そして、とても素敵だなって思いました。
やはり人間だものですね
人と人の間で
「こえをかけて、ふれ合って,こころがつながって、なにかを感じとって」
それでひとからにんげんになります.
この「一期一笑」は私にとっても一生忘れられない大切な言葉になっています。
そして、この言葉のように、一つ一つの出会いを大切に
そして、笑顔で溢れるようにしていこうと思っているのです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。